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  データヘルス計画とは?

1.データヘルス計画について

データヘルス計画いう言葉をご存知ですか?
データヘルス計画とは、生活習慣病の特定健康診査(特定健診、いわゆるメタボ健診)や診療報酬明細書(レセプト)などから得られるデータの分析に基づいて実施する、効率のよい保険事業を目指した計画のことをいいます。
厚生労働省は2015年度から、すべての健康保険組合に対してデータヘルス計画の作成と実施を求めています。
その背景として、今後ますます増加することが見込まれる医療費に少しでも歯止めをかけたい政府と、組合員の健康状態を改善させることで保険収支を改善させたい保険組合と、国民の健康状態を改善させたい厚労省との、三者の利害が一致したことがあります。
 
特定健診なども同様の目的で実施されていますが、特定健診受診者や医療機関を定期的に受診している人については、生活習慣や検査数値の改善が見られているものの、肝心の特定健診受診率や、医療機関への受診率が今ひとつ上がらないといったことが問題視されていました。
この受診率を上げることが、国民の健康に貢献するのではないかと考えられたのですが、ここで1つ大きな問題が浮上しました。
それは、政府には誰が受診しなかったのかがわからない、ということです。

一般の定期健診は事業者が行い、その結果は事業者に帰属します。それは、健診の結果を参考にして、適切な本人の配置を行うためです。
一方で、特定健診は実施しているのが健康保険組合(国民健康保険、共済組合など)です。
特定保健指導(いわゆるメタボな人への健康指導)は、特定健診を行っているのが健康保険組合ですので、当然健康保険組合が行います。
一方で、レセプトなどの、実際に受診した情報を持っているのは、受診した人が所属している健康保険組合と、そのデータが全て集まってくる政府になります。

ここで気がつく人もいるかと思うのですが、先ほどの政府には誰が受診や保健指導を行わなかったのかがわからない、という問題は、健康保険組合が両方のデータを持っているということで解決できます。
つまり、健康保険組合が特定健診のデータとレセプトのデータとを照合、組み合わせをすることで、データヘルス計画が可能になります。
したがって、データヘルス計画を行うのは当然に健康保険組合となります。
政府はあくまでもそれを指導、監督するという立場なんですね。

ただ、今までであれば、そのデータを健康保険組合が持っていたとしても、それを処理するのが非常に難しいという問題がありました。
なぜなら、例えば以前のレセプトは紙で送られてくることが多かったからです。
そのため、レセプトのデータを使えるように適切なデータに起こすだけでも大変な手間がかかります。
そこからさらにデータの処理をしなければならない、というと、これは不可能とまでは言わないまでも、非常に困難な作業であったとえいます。

しかし、最近ではほぼすべて(92%程度)のレセプトが電子化されてデータで送られてくるようになりました。
さらに、近年のコンピュータテクノロジーの発達によって、個人の特定健診のデータと、その後の医療受診行動などを対応させ、データ処理を行う事が可能になってきています。
このため、データヘルス計画は、一部では医療版ビックデータとも呼ばれています。


2.問題点と松竹梅

さて、このデータヘルス計画を実際行うにあたり、いくつかの問題が浮上しました。
それは例えば、
どんなデータを拾い上げるのか(例えば血糖値や血圧、腹囲など、データはたくさんあります)ですとか、
誰が、そのデータを処理するのか(保険組合は元々そういったデータ処理をする会社ではありません)ですとか、
実際にデータ処理をしたのはいいものの、その事後措置については、どのようにチェックをしていくのか、
などといった問題です。

こういった問題に対して、政府は一定の方針を示しています。
それは、例えば
生活習慣病リスクや、特定健診と特定健康指導の受診率等のデータを、
それぞれの保険組合が(レセプト管理・分析システムを使うことで)、
目標設定、効果測定を行った上でPDCAサイクルを回していく
と言った方針です。
具体的には、個々の加入者の特定健診の結果やその後の医療機関などの受診状況に応じて、各健康保険組合がその加入者にオススメの食習慣などを含めた生活健康習慣情報を文書で交付し、目標体重や腹囲、血糖値等のデータについて追跡し、達成率についても目標を立て、達成状況について測定していくこと、などの例が考えられます。

政府としては、コースを大きく3種類に分けています。
仮称として、それぞれ、松竹梅とネーミングされています。
上述のようなプランですと、に相当します。
おどろくべきことに、このレベルの計画=梅であれば、事例集とモデル計画を参考にすることによって、各々の保険組合で実施可能とされています。
松コースや竹コースですと、こういったプランにさらに従業員の家族情報なども含めて統合していくことを目標にしているようです。
その場合は、健康保険組合で実行することが難しいかもしれないことから、外部の業者を利用することも想定されています。
実際にどのコースを選択するのかは各健康保険組合に委ねられていますが、それぞれの健康保険組合の大きさに見合ったコースを選択するのが望ましい、とされているようです。

もちろん梅コースであっても、それ以外のコースであってもデータ処理などについて外部の業者を使うことも認められています。
ですが、この場合、個人情報の取り扱い、と言った大きな問題が発生します。
こういった問題については今後政府からガイドラインが発表されるようです。


3.今後の予定

今回のデータヘルス計画は平成29年度で一度総括をし、その後はまた5カ年計画を練っていくようですが、今後のさらなる目標として

・重症化予防などを費用対効果で分析し、保健事業で改善させていくこと
・従業員の家族も含めた加入者の健康情報をカバーし、リスクに応じた健康管理と保健事業を行っていくこと
・事業主とコラボすることで、各事業場の作業及び健康状況に対応した保健事業の推進や、それぞれの事業場ごとの健康状況を比較し、健康計画を進めていくこと
・40歳以下の健康情報も統合したさらなるデータヘルスの推進(注: 特定健診は40歳以上を対象としているため、これらの健診データはそれぞれの事業者や自治体が保持しているため、健康保険組合からはアクセス出来ない)

なども視野に入れているようです。
特に最初の2個については、健康保険組合の規模によっては、今回の計画から実施していくことを望まれているようです。

このように、大きな可能性がありながらも色々な問題が存在しているデータヘルス計画ですが、計画開始は既にもうそこまで迫っています。



データヘルス計画の予定表をご覧頂くと、来年度には各健康保険組合でデータヘルス計画が実施に移されます。
そして、そのための計画がまさに今練られているかと思われます(執筆は2014年7月)


4.主なモデルプラン

では、実際にはどのようなモデルプランが想定されているのでしょうか?
このモデルプランも厚生労働省から発表されています。

例えばある保険組合では、
生活習慣病をターゲットに、前年のデータ解析で選ばれた、血糖・血圧・脂質・透析におけるハイリスク者を中心に、会社の協力を得た上で、保健師が介入を行い、その結果を評価する取り組みをしています。
さらに、情報通信技術を活用した先進的な保健事業である『健康マイポータル(仮)』を導入し、対象者への受診勧奨・医療機関への受診確認ができる仕組みを構築・実証を行う事を目標にしています。

他にも別の健康保険組合では、飲酒をターゲットに、毎日飲酒し、かつ生活習慣病の高リスク者を対象に、飲酒習慣の変化と健診データの改善について検証を行っています。
やり方としては、応募者が節酒目標を立て、SAS(睡眠時無呼吸症候群)簡易検査機を使用して、節酒時の睡眠の質の変化を啓蒙し(一般に飲酒時は睡眠の質が低下することが知られています)、適正な飲酒量になるよう支援していくことを決めています。
さらに併せて健診・レセプトデータと組み合わせることで飲酒習慣と循環器系疾患の発症や関連性について分析し、今後の健康管理に役立てていくことなどを目標にしています。

地域性を考慮に入れた試みとしては、九州にある健康保険組合で、九州では人口当りの人工透析患者が多いことから、人工透析・糖尿病重症化予防を主な目標とした計画を策定しているところもあります。
その健康保険組合では、それ以外にも、糖尿病ハイリスク者に対する「糖尿病疾病管理事業」や事業所毎にリスク者が偏在するため、事業所単位で生活習慣病予防や禁煙推進事業の実施など、実効性の高い保健事業を検討したりしています。

また、面白い試みとしては、ある航空会社の取り組みが挙げられます。
その健康保険組合において、特定の階層を重視した事業を重視することなく、健康な人から疾病リスクの高い人まで、あらゆる階層に対応した事業を実施していくことを基本方針としているということです。
通常であれば、データヘルス計画は特定健診=メタボ健診医療機関の受診情報=レセプトを組み合わせることで、リスクが高い人へのリスクの低下を働きかける=ハイリスクアプローチ、を想定しています。
前掲の3つの健康保険組合の取組みも、それぞれ生活習慣病、飲酒、人工透析をターゲットにしていました。
しかしこの会社の健康保険組合は、広く健康状態を改善していくために、あらゆる階層に対応した働きかけ=ポピュレーションアプローチ を目標にしています。
具体的な内容としては、スマホを活用した健康情報の提供や行動変容(運動・食事等)のきっかけ作り(1次予防)を提供し、
疾病リスクの早期発見のための健診受診率向上(2次予防)を促し、
健診・レセプトデータ分析により集団的傾向や個々人の疾病リスクを把握し、各リスクに対応した保健事業(3次予防)を行っていくこと
のそれぞれに優先順位を付けて実施していくことを目標にしています。
こういったポピュレーションアプローチを採用した理由の一つとして、おそらくですが、
航空業界は深夜の勤務や、休憩なしの長時間勤務が多かったりするため(注: 飛行機の運転中にパイロットが休憩していたら嫌ですよね……)、全ての労働者に対しての働きかけが必要だと判断されたんでしょうね。

このように様々な取り組みがあるデータヘルス計画ですが、先述しましたようにデータの数が膨大な上に、より先進的な取り組みをするのであれば、健康保険組合単体でそれを実行に移すのは難しいという問題があります、
したがって、医療版ビックデータ、の呼び名もある通り、産業界にも大きなビジネスチャンスとして捉えられているようです。

実際に経産省は、このデータヘルス計画導入に際して、次世代ヘルスケア産業協議会という研究会を開催しています。
そこでは、「健康寿命延伸分野の市場創出及び産業育成は、国民のQOL(生活の豊かさ)の向上、国民医療費の抑制、雇用の拡大及び我が国経済の成長に資するものであるため」官民が一体となってその市場創出及び産業育成に向けた具体的な対応策について検討を行っているようです。
要するに、厚生労働省、政府、健康保険組合以外にも、経産省としても新しい市場の創出となりうる今回の計画について賛成している、ということです。

しかし、このような健康寿命延伸“産業”にも課題が山積みです。
例えば、企業や健保組合にとって、健康増進のメリットや経済的な効果が不明確であるため、このような費用を、「投資」ではなく「コスト」としての認識が中心となっている=出来れば削減したい対象となっていることや、
規制の適用に関するグレーゾーンが存在し、事業者が新事業活動を躊躇していること、さらに
ビジネスモデルが確立しておらず、新事業活動に必要な資金・人材の確保が困難であること
他にも医学的効果が不明確な製品やサービスが多く、企業・個人が積極的に使いにくい状況などが問題点として挙げられています。

しかしながら、これからも発展が見込め、かつ市場規模も大きいことが予想されるので、経産省としては健康産業の現状規模(51万人、4兆円)から2020年には130万人、10兆円規模の市場へと、5年で2倍以上の市場拡大を狙っているようです。
そのため、先に挙げた問題などに対してワーキンググループを設立し、事業環境を整備していくことで、市場・新産業の土壌づくりに携わっています。

具体的には、新産業創出のためのアクションプランとして、次の3つが掲げられています。
すなわち
新事業創出のための環境整備
健康投資・健康経営の促進
ヘルスケアサービスの品質の見える化

となっています。

これらのアクションプランにより、
経済的なメリットをわかりやすく評価指標の形で算出し、データヘルス計画と連携してインセンティブ制度の設計をしていくことや
グレーゾーンに関し、産業競争力強化法に基づく個別事案の解消を促進し、さらに地域版「次世代ヘルスケア産業協議会」を全国展開し、優れたビジネスモデルを普及させ、モデル実証事業も支援していくこと、さらには政策金融による融資や人材のマッチング事業も政府主導で行っていくことで、事業者の新規参入をやりやすくすること
そして、民間機関による第三者認証を行っていくことで、実際に医学的に効果があることを実証し、PDCAサイクルを回しやすくすること、
などを計画しています。
経産省さん、頑張っていますね。

実際に、産業医の立場からは、データヘルス計画による健康データへのアクセシビリティの向上にはとても期待しています。
というのも、例えばメンタルや生活習慣などへの介入を行う際に、健保が持つレセプトおよび生活習慣情報(一日に歩いた歩数など)の変化を確認することは非常に有効だと考えられます。
しかし、産業医は健保組合に属しているわけではなく、事業所と契約してそのような業務を行っていますので、それらの情報へのアクセス権がありません。
したがって、それらの情報には労働者本人を通じて問診などの形で収集するしか無いのですが、自分の生活習慣などのデータを把握している人は非常に少ないという問題があります。
もしもそれらの情報に対するアクセスが可能であれば、労働者本人には些細な変化として見過ごされていた、しかし医療者から見ると非常に大きな変化であるものが見つかる可能性があります。
そうすれば、その変化による例えば血液データの変化や動脈硬化などの症状が出てくる前に、友好な手を打てる可能性が高まります。
だから、データヘルス計画は、産業医と健保組合とが情報共有を行うことが難しいという問題を解消してくれる可能性があるものとして、大いに期待しています。

付け加えるのであれば、医療機関と健保組合とかが連携することで、病院や診療所の医師が、患者さんの実際に生活している、働いている場所でのナマのデータにアクセスできる可能性すら広がってきます。
世の中には、白衣高血圧、という言葉があります。
これは、自宅では血圧が低いのに、病院に来ると=白衣を見ると緊張してしまって血圧が上がってしまう、というような事を指します。
この場合、自宅ではどうなのか、と言った普段の生活情報がとても重要になってきますが、
データヘルス計画により、この情報が圧倒的に増加し、病院に来ている労働者=患者さんの健康管理にも良い影響を与えてくれる可能性が高いと思われます。

これらの理由から、産業医である医師の立場からは、データヘルス計画に大きな期待を寄せています。
このデータヘルス計画が、労働者の皆様の健康状態を改善し、日本を元気にして、新たな雇用を創出することで景気が良くなり、さらには医療財政も改善させることを強く祈念しています。


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