データヘルス計画とは? |
1.データヘルス計画について |
データヘルス計画いう言葉をご存知ですか? 一般の定期健診は事業者が行い、その結果は事業者に帰属します。それは、健診の結果を参考にして、適切な本人の配置を行うためです。 ここで気がつく人もいるかと思うのですが、先ほどの政府には誰が受診や保健指導を行わなかったのかがわからない、という問題は、健康保険組合が両方のデータを持っているということで解決できます。 ただ、今までであれば、そのデータを健康保険組合が持っていたとしても、それを処理するのが非常に難しいという問題がありました。 しかし、最近ではほぼすべて(92%程度)のレセプトが電子化されてデータで送られてくるようになりました。 |
2.問題点と松竹梅 |
さて、このデータヘルス計画を実際行うにあたり、いくつかの問題が浮上しました。 こういった問題に対して、政府は一定の方針を示しています。 政府としては、コースを大きく3種類に分けています。 もちろん梅コースであっても、それ以外のコースであってもデータ処理などについて外部の業者を使うことも認められています。 |
3.今後の予定 |
今回のデータヘルス計画は平成29年度で一度総括をし、その後はまた5カ年計画を練っていくようですが、今後のさらなる目標として ・重症化予防などを費用対効果で分析し、保健事業で改善させていくこと なども視野に入れているようです。 このように、大きな可能性がありながらも色々な問題が存在しているデータヘルス計画ですが、計画開始は既にもうそこまで迫っています。
|
4.主なモデルプラン |
では、実際にはどのようなモデルプランが想定されているのでしょうか? 例えばある保険組合では、 他にも別の健康保険組合では、飲酒をターゲットに、毎日飲酒し、かつ生活習慣病の高リスク者を対象に、飲酒習慣の変化と健診データの改善について検証を行っています。 地域性を考慮に入れた試みとしては、九州にある健康保険組合で、九州では人口当りの人工透析患者が多いことから、人工透析・糖尿病重症化予防を主な目標とした計画を策定しているところもあります。 また、面白い試みとしては、ある航空会社の取り組みが挙げられます。 |
このように様々な取り組みがあるデータヘルス計画ですが、先述しましたようにデータの数が膨大な上に、より先進的な取り組みをするのであれば、健康保険組合単体でそれを実行に移すのは難しいという問題があります、
したがって、医療版ビックデータ、の呼び名もある通り、産業界にも大きなビジネスチャンスとして捉えられているようです。
実際に経産省は、このデータヘルス計画導入に際して、次世代ヘルスケア産業協議会という研究会を開催しています。
そこでは、「健康寿命延伸分野の市場創出及び産業育成は、国民のQOL(生活の豊かさ)の向上、国民医療費の抑制、雇用の拡大及び我が国経済の成長に資するものであるため」官民が一体となってその市場創出及び産業育成に向けた具体的な対応策について検討を行っているようです。
要するに、厚生労働省、政府、健康保険組合以外にも、経産省としても新しい市場の創出となりうる今回の計画について賛成している、ということです。
しかし、このような健康寿命延伸“産業”にも課題が山積みです。
例えば、企業や健保組合にとって、健康増進のメリットや経済的な効果が不明確であるため、このような費用を、「投資」ではなく「コスト」としての認識が中心となっている=出来れば削減したい対象となっていることや、
規制の適用に関するグレーゾーンが存在し、事業者が新事業活動を躊躇していること、さらに
ビジネスモデルが確立しておらず、新事業活動に必要な資金・人材の確保が困難であること
他にも医学的効果が不明確な製品やサービスが多く、企業・個人が積極的に使いにくい状況などが問題点として挙げられています。
しかしながら、これからも発展が見込め、かつ市場規模も大きいことが予想されるので、経産省としては健康産業の現状規模(51万人、4兆円)から2020年には130万人、10兆円規模の市場へと、5年で2倍以上の市場拡大を狙っているようです。
そのため、先に挙げた問題などに対してワーキンググループを設立し、事業環境を整備していくことで、市場・新産業の土壌づくりに携わっています。
具体的には、新産業創出のためのアクションプランとして、次の3つが掲げられています。
すなわち
新事業創出のための環境整備
健康投資・健康経営の促進
ヘルスケアサービスの品質の見える化
となっています。
これらのアクションプランにより、
経済的なメリットをわかりやすく評価指標の形で算出し、データヘルス計画と連携してインセンティブ制度の設計をしていくことや
グレーゾーンに関し、産業競争力強化法に基づく個別事案の解消を促進し、さらに地域版「次世代ヘルスケア産業協議会」を全国展開し、優れたビジネスモデルを普及させ、モデル実証事業も支援していくこと、さらには政策金融による融資や人材のマッチング事業も政府主導で行っていくことで、事業者の新規参入をやりやすくすること
そして、民間機関による第三者認証を行っていくことで、実際に医学的に効果があることを実証し、PDCAサイクルを回しやすくすること、
などを計画しています。
経産省さん、頑張っていますね。
実際に、産業医の立場からは、データヘルス計画による健康データへのアクセシビリティの向上にはとても期待しています。
というのも、例えばメンタルや生活習慣などへの介入を行う際に、健保が持つレセプトおよび生活習慣情報(一日に歩いた歩数など)の変化を確認することは非常に有効だと考えられます。
しかし、産業医は健保組合に属しているわけではなく、事業所と契約してそのような業務を行っていますので、それらの情報へのアクセス権がありません。
したがって、それらの情報には労働者本人を通じて問診などの形で収集するしか無いのですが、自分の生活習慣などのデータを把握している人は非常に少ないという問題があります。
もしもそれらの情報に対するアクセスが可能であれば、労働者本人には些細な変化として見過ごされていた、しかし医療者から見ると非常に大きな変化であるものが見つかる可能性があります。
そうすれば、その変化による例えば血液データの変化や動脈硬化などの症状が出てくる前に、友好な手を打てる可能性が高まります。
だから、データヘルス計画は、産業医と健保組合とが情報共有を行うことが難しいという問題を解消してくれる可能性があるものとして、大いに期待しています。
付け加えるのであれば、医療機関と健保組合とかが連携することで、病院や診療所の医師が、患者さんの実際に生活している、働いている場所でのナマのデータにアクセスできる可能性すら広がってきます。
世の中には、白衣高血圧、という言葉があります。
これは、自宅では血圧が低いのに、病院に来ると=白衣を見ると緊張してしまって血圧が上がってしまう、というような事を指します。
この場合、自宅ではどうなのか、と言った普段の生活情報がとても重要になってきますが、
データヘルス計画により、この情報が圧倒的に増加し、病院に来ている労働者=患者さんの健康管理にも良い影響を与えてくれる可能性が高いと思われます。
これらの理由から、産業医である医師の立場からは、データヘルス計画に大きな期待を寄せています。
このデータヘルス計画が、労働者の皆様の健康状態を改善し、日本を元気にして、新たな雇用を創出することで景気が良くなり、さらには医療財政も改善させることを強く祈念しています。